Other私が真剣に台所用洗剤と向き合うまでの顛末
遊びは、真剣になればなるほど面白い。 シャボン玉、と聞けば誰しもが幼少期の思い出をたどるか、子供と遊んだ時の記憶を思い返すもの。 意識して大人になろうとしたわけではないけれど、大人になってからシャボン玉で真剣に遊んだことはなかった。むしろ、シャボン玉で遊ばなくなったから、大人になってしまったのかもしれない。 なるほど、大人というやつには自然と成ってしまうようだ。そうして、いろいろなことをしなくなる。する能力はおとろえていなくとも、だ。 なんとも恥ずかしいことではないか。大人よりも子供のほうが、ずっとえらいに決まってるだろう。 このゴールデンウィーク最後の週末は、不思議な出会いがあった。 黄色くてぴかぴかの、透明で細長い容器。 そこに収まる、なにかしらのギミックを感じさせる黄色い物体。 子供のまなざしをひきつける、極彩色のシール。 これを一日で何度も見かけることになる。 最初に見かけたのは、たしか山田が持っているのが視界の端にうつったときだ。 私が頭のなかの記憶で真っ先に結びつけたのは、シャボン玉。 あの、公園の売店とかで売っているヤツの大きいバージョン。 ちょっと面白そうだとはおもったけれど、特には突っ込まなかった。 面白そうだとは思ったけれど、山田が面白そうなのはいつものことだから。 次に見かけたのは、チカ(姉)が遊んでいるのが見えたときだ。 オレンジのレバーを押すと、黄色い棒がハサミのように展開して輪をつくるシャボン玉器具のようだ、ということがみてとれた。 遊んでいる、というかまったくシャボン玉は形成されていないように見えた。 なるほど。中の液体がなくなったから洗剤で代用したが、まったくうまくいかないという事らしい。 このとき、私は記憶の戸棚を探ってみた。たしか、昔学習漫画かなにかで割れにくいシャボン玉を作る話があった。洗濯糊と、なにか薬品を入れていたのだと思う。しかし、その薬品の名前が思い出せない。私はそっと戸棚を閉じた。 このときは、まだそれほど気に留めていたわけではなかった。 シャボン玉が出来ないシャボン玉器など、飛べない翼より用が無いではないか。 そして、運命の出会いを果たしたのは、マサシが持ってこちらに歩いてきたときだ。 彼は私にそのシャボン玉器(正確にはシャボン玉の生成に成功していないゴミ)を渡すと、逃げるように立ち去った。容器は洗剤でベトベトだった。おそらく彼はゴミを押し付けたつもりでいたのだろう。そして、それはこの瞬間には確かに正しかった。 いったいこれの所有者は誰なんだ。 そんな疑問が一瞬、トンボのように通り過ぎたあと、ふと心がざわめくのが感じられた。 シャボン玉を作れないのは、液体のせいだ。ならば、作ろう。 容器をていねいに洗って車にしまう。 次に、インターネットで情報をさぐる。 しかし、どこのサイトも泡をつかむような情報だらけ。 洗濯糊と、食器用洗剤?マツキヨで手に入る組み合わせだけで何百通りもありそうだ。 知りたいのは、どの銘柄、どの種類を買えばいいのか。 あわ立ちの悪いヤシノミでもいいのか?保湿成分が入っていてもいいのか? 糊は何用がいいのか?成分はどれがいいのか? とりあえず、宿に向かう前の買出しで、カスミに売っている唯一の洗濯糊を買ってみた。 このときはまだ、シャボン玉なんて適当にやっても作れるだろうとタカをくくっていたのだ。 レセプが大盛り上がりの裏で、シラフの状態のまま製作に取り掛かる。 しかし、作ってみた液はシャボン玉どころか膜すら張らない。 洗剤だけでやってみると、膜を張る。 ということは、この洗濯糊がなにか悪さをしているのだ。 あとでわかったことだが、このとき買った「キーピング」という洗濯糊はジメチコンという消泡剤が添加されていた。 翌日、私はリベンジを誓った。 まずは、洗剤と洗濯糊の銘柄まで書いてあるサイトを探した。そして、それをマツモトキヨシに買いに走った。 すべてはミリリットル単位で正確に軽量し、消泡剤のついたシャボン玉器は徹底的に洗浄した。 そして、満を持して挑んだ…のだが なんだかイマイチ飛んでゆかない。 できることにはできるのだが、ほとんどもたない。 作業場(宿舎の台所)に戻り、作った液の余りを観察する。 ふと、手につけて膜を張り、吹いてみる。 驚くほどあっさりシャボン玉が出来る。 ここで気がついた。私の記憶の泉に沈んでいた、中学校の化学実験で習ったこと。 「共洗い」だ。 こんなに濃度がシビアな液を作っているのに、水洗いしたシャボン玉器をそのまま使っていた。 これではシャボン玉器についた水でシャボン玉液が薄まって当然である。 理系諸氏にはおなじみかもしれないが、すっかり忘れていた。 そこで、シャボン玉器をシャボン玉液で洗い、シャボン玉液を満たした。 これなら完璧なはず… しかし、小さいのは出来ても大きいのができない。 このシャボン玉器は60センチほどの長さがあり、明らかに大きなシャボン玉を作ることを狙ったデザインである。 しかし、輪を大きく開くとすぐに割れてしまう。 どういうことだ?容器に挿しこんだまま観察してみた。 液を保持する溝から、細かい泡が立ち上っている。 泡が収まるのを待ってシャボン玉器を引き抜き、開くと、大きなシャボン玉がすごい勢いで飛んでいった。 そして合点がいく。 生成できるシャボン玉のサイズは、きっとこの溝に保持された液の量が関係しているのではないか。 液に沈めてすぐに引き抜くと、泡に阻害されてシャボン玉器に液が十分いきわたっていないのではないか。 本当の答えは、よくわからない。 でも、完璧にコツをつかんだ私は、いまや自由自在にシャボン玉をつくっていた。 大きなシャボン玉が、乱流に飲まれて弾け、小さなシャボン玉になって空へと上っていく。 たったそれだけ。されど美し。 シャボン玉は、まさしく化学だ。 世間では錬金術が化学の発展の原動力だというが、あれはうそだ。 人類はシャボン玉を作るために化学を発展させたに違いない。 ※余った液体は無事後輩たちのおもちゃになりました。 [情報元サイト] http://soapbubbler.blog.fc2.com/blog-entry-23.html 泡のチカラの種類は手肌プレミアムでも大丈夫でした。
工藤匠悟


